IT業界全体を支えるインフラエンジニアは、具体的にどのような仕事をしているかご存じでしょうか。社会において必要不可欠な業務であり常に最新技術の知識も必要なため、自己成長や達成感を味わえる職業といえるでしょう。
今回は、インフラエンジニアの仕事内容や年収、必要なスキルなどをご紹介します。
インフラエンジニアとは、IT分野におけるインフラの設計・構築・運用・保守を行う技術者のことです。
インフラとは電気・ガス・水道など生活の基盤を支えるもののことで、IT分野におけるインフラとは情報システムの基盤を作る機器や設備を指します。具体的にはパソコンやサーバーのようなハードウェアの他、インターネットやOSなどのソフトウェアも対象です。ITインフラが整備されていないと、メールやWebサイトの閲覧に支障をきたすばかりでなく、機器の故障やセキュリティ問題も招く恐れがあります。
後ほどご紹介するサーバーエンジニア・ネットワークエンジニア・セキュリティエンジニア・クラウドエンジニア・データベースエンジニアなどの職種を総称したものが、インフラエンジニアです。インフラエンジニアの仕事内容が多岐にわたることが分かります。
■ インフラエンジニアのやりがい
インフラエンジニアのやりがいとしては、以下の4つが挙げられます。
システムの根幹に関われる
需要のある知識を身につけられる
社会への貢献を実感できる
安定したキャリアプランを形成できる
ネットワークやサーバー、通信機器など、インフラのべース部分を担うため、クライアント企業に大きな影響力を与える仕事です。ITインフラは仕事の領域が広く、どの企業にとってもなくてはならないものなので、身につけた専門スキルを活用すれば、将来における選択肢の幅も広がるでしょう。
■ インフラエンジニアとシステムエンジニアの違い
システムは、基盤であるインフラと、インフラを使って稼働するアプリケーションから成ります。インフラの部分を担当するのがインフラエンジニアで、システム全般を担当するのがシステムエンジニアです。システムエンジニアのほうがインフラエンジニアより広い領域を担当します。
また、インフラエンジニアとシステムエンジニアは、それぞれ担当業務が異なります。
インフラエンジニア:IT分野におけるインフラの要件定義・設計・構築・運用・保守を行う技術者
システムエンジニア:システムの要件定義・設計をメインに行う技術者
インフラエンジニアは設計から構築、運用まで全過程を担います。システムエンジニアも全過程を担うことがありますが、主な仕事はクライアントからヒアリングし、どのようなシステムを構築するのかを示すことです。
インフラエンジニアの仕事内容は、「上流工程」と「下流工程」の2種類に分けることができます。それぞれの工程で行う仕事についてお話していきましょう。
■ 上流工程
上流工程とは、システムの提案から導入までを担当するフェーズであり、下記3つの業務を行います。
要件定義
要件定義とは、クライアントの要求をふまえたうえで、業務フローや業務のシナリオを作成することです。コストやスケジュールを考慮してどのようなインフラ環境を作るのか定義し、プロジェクトの全体的な概要や目的を明確にします。
設計
設計とは、要望をもとにどのようなシステムを構築するか考える業務であり、仕事内容は「基本設計」と「詳細設計」の2つに分けられます。
基本設計でシステム構築の方針を定め、詳細設計で具体的な機器やパラメーターなどを決定し、設計書にまとめます。一か所で問題があっても、システムが停止しないような設計を考えるのが重要です。どのような設計にすれば要件を達成できるかを考えるフェーズのため、非常に技量を試される業務でしょう。
構築
構築は、設計をふまえてネットワークを作り上げる業務です。機器を設置したり配線を行ったりして、ネットワーク環境を整えることはもちろん、実際に稼働をしてから問題が起こらないかどうかテストも行います。
■ 下流工程
下流工程とは、システム導入以降を担当するフェーズであり、下記3つの仕事を指します。
監視・運用・保守
安定したインフラ環境をクライアントへ提供し続けるため、トラブルの予防策を実施するとともに問題がないかどうかシステムを監視します。問題が起きたら、速やかに原因調査を行い対処します。
監視の対象は、サーバーやネットワーク、クラウドサービスの稼働、ストレージ内のデータ容量やCPU使用率などです。適宜システムのメンテナンスやバージョンアップを行い、問題なく運用できるようインフラ環境を整えておきます。
エラーが発生したら、キャパシティの調整やディスクの交換などを行い、必要に応じてシステム改善案を作成します。
インフラエンジニアは、担当する領域に応じて以下5つの種類に分けられます。
どのエンジニアもクライアントの要望を聞き、要件を明確にしたうえで設計や構築、運用を行います。下記5種類の職業についてお話していきましょう。
■ サーバーエンジニア
サーバーエンジニアは、「サーバー」の設計や構築、運用保守を担当する職業です。ハードウェアの選択や構成、OS(オペレーティングシステム)のインストールなどを行います。
サーバーとは各パソコンに情報を送るコンピューターのことです。ユーザーがWebサイトのページをクリックすると、その要求を受けて該当ページの情報を送るのが役割の一例です。
■ ネットワークエンジニア
ネットワークエンジニアとは、ネットワークの設計や構築、運用保守を担当する職業です。
ケーブルやインターネットを通して、複数のコンピューター間で情報をやり取りできるようにする「ネットワーク」を整備します。
■ セキュリティエンジニア
セキュリティエンジニアとは、情報セキュリティに関連する企画や設計、運用を担当する職業です。
システムのコンサルティングをもとに、必要なセキュリティを判断し、システムの設計や実装、運用を行います。また、近年増加しているサイバー攻撃に対する調査や対策も役割の1つです。
■ クラウドエンジニア
クラウドエンジニアとは、ネットワーク上でデータの保存やアプリケーションを利用できる「クラウドサービス」の設計や構築、保守運用を行う職業です。
従来はサーバーなどのハードウェアを保守運用していくことが一般的でしたが、クラウドサービスの導入が進んでいる今、需要が高まっていくことが予想されます。
■ データベースエンジニア
データベースエンジニアとは、「データベース」の開発や設計、運用保守を行う職業です。データの適切な管理やサーバーの最適化、データベースのアクセス権管理やバックアップなどを実施します。
データベースとは決まった形式で整理されたデータの集まりであり、大量の情報の中から特定の条件に応じたデータを取り出す際に役立つものです。
ロバート・ハーフの自社データでは、インフラエンジニアの平均年収は650〜1,350万円です。
関連職種の平均年収もご紹介しますので、参考にしてみてください。
職種 | 経験値が浅い場合 | 平均的な経験値の場合 | 優れた経験値がある場合 |
テクニカルリード | 950万円 | 1,150万円 | 1,350万円 |
クラウドエンジニア | 850万円 | 1,050万円 | 1,350万円 |
データベースエンジニア | 850万円 | 1,050万円 | 1,350万円 |
開発/インフラ責任者 | 1,250万円 | 1,550万円 | 1,850万円 |
インフラ/オペレーションマネージャー | 850万円 | 1,250万円 | 1,650万円 |
仮想化エンジニア | 650万円 | 850万円 | 1,250万円 |
以下で、インフラエンジニアの具体的な求人例を紹介します。
職種:インフラエンジニア
想定年収:1,200~1,400万円
職務内容:
・セキュリティ、クラウドサーバー、コーポレートIT、SAP BASISを含む
ITインフラの設計、構築、運用
・効率性と安定性を高めるためのITインフラの標準化と近代化
・グローバルチームとの協業によるダイナミックな変革の推進
・必要に応じたリーダーシップとサポートの提供
応募資格:
・セキュリティ、クラウドサーバー、企業IT、SAP BASISに関する深い専門知識
・ITインフラの標準化と近代化の経験
・グローバル環境での業務経験
勤務地:東京23区
インフラエンジニアに必要なスキルとしては、以下3つが考えられます。
■ システムとネットワークに関する知識
ネットワーク知識: TCP/IP、DNS、DHCPなどのネットワークプロトコルに関する深い知識と、ルーティング、スイッチング、ネットワークセキュリティのスキル。
サーバー管理: Windows ServerやLinuxなどのオペレーティングシステム、サーバーハードウェア、仮想化技術(VMware、Hyper-Vなど)の熟練度。
クラウドプラットフォーム: AWS、Azure、Google Cloudなどのクラウドサービスを管理する能力と、効果的なクラウドインフラ管理の実践力。
■ 問題解決力とトラブルシューティング
診断スキル: ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークシステムに関連する問題を正確に特定し解決する能力。
分析力: システムパフォーマンスの分析、ボトルネックの特定、効率向上のためのソリューションの実装に関する専門知識。
インシデント対応: システム障害の処理、災害復旧計画の実行、事業継続性の維持に関する能力。
■ 自動化とスクリプティング
スクリプティング言語: タスクの自動化とインフラ管理のためのPython、PowerShell、Bashなどのスクリプティング言語の経験。
自動化: 一貫したシステム設定、手動エラーの削減、更新の効率化を実現する自動化ツールの知識。これらのスキルは、効率的でスケーラブルなインフラを維持するために不可欠です。
ロバート・ハーフ・ジャパンのテクノロジー部門アソシエイトディレクターのVictoria Ryoさんは、「これらのスキルを総合的に活用することで、インフラエンジニアは、日々の運用課題から長期的な戦略目標まで、堅牢でスケーラブルかつ効率的なIT環境を維持することができます」と述べます。
インフラエンジニアは未経験でもなれる職業ですが、以下のような資格を持っていると、就職活動の際に有利に働きます。上記6つの資格についてお伝えしていきましょう。
■ 情報処理技術者試験
「情報処理技術者試験」とは、情報処理技術者としてのスキルや知識が一定水準以内であることを証明する国家試験です。試験は12種類あり、4レベルの難易度が設定されています。こちらではインフラエンジニアに適した5つの試験をご紹介します。
情報処理技術者試験
LinuC
シスコ技術者認定試験
ORACLE MASTER(オラクルマスター)
情報処理安全確保支援士試験
AWS認定
■ LinuC(リナック)
「LinuC(リナック)」とは、LPI-Japanが提供する「Linux技術者認定」のことで、ITエンジニアとしての構築や運用のスキルが証明できます。
Linuxやオープンソースなどクラウドの活用方法に関する専門的な知識も問われ、試験対策を通じて現場に活かせるスキルが身につくことが特徴です。4つのレベルがあるため、スキルを少しずつ習得したい方におすすめです。
■ シスコ技術者認定試験
「シスコ技術者認定試験」は、ネットワークやセキュリティに関連する試験です。認定を得られれば、ネットワークエンジニアやサーバーセキュリティアナリストへの道も開けます。世界規模で事業を展開しているCiscoシステムズ社が認定する試験のため、世界的に有名な試験といえるでしょう。
技術の種類ごとに試験があり、それぞれの試験に入門レベルからエキスパートのレベルまで2~4つのレベルが用意されています。認定の有効期限が3年と限定されており、実際のスキルが反映されているのが特徴です。
■ ORACLE MASTER(オラクルマスター)
「ORACLE MASTER(オラクルマスター)」は、Oracle Universityが認定する資格です。データベースやSQLの知識と運用力が証明できます。資格の勉強を通して、最新のスキルが身につくことがメリットです。
Oracle Databaseのツールを基準にスキルが測られます。Oracle Databaseを使用する企業は多く、Oracle Database以外のデータベースを扱う場合も応用が効くでしょう。資格は4つの難易度にわかれており、上位のグレードは世界基準で評価される資格として知られています。
■ 情報処理安全確保支援士試験
「情報処理安全確保支援士試験」は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する試験であり、合格すれば国家資格が得られます。試験で問われるのは、情報セキュリティに関する知識や技能です。
試験は最高峰のレベル4に区分されますが、難易度の高い試験としてはめずらしく年に2回実施されおり、受験資格も特にありません。情報セキュリティの重要性は年々増しているため、興味があればチャレンジしてみると良いでしょう。
■ AWS認定
「AWS認定」は、ECモールを運営する「Amazon」が提供するクラウドサービスの専門知識や技術力を証明します。AWSとは「Amazon Web Services」の略で、インフラだけでなくIoTのような最新技術も取り入れた豊富な機能が特徴です。
クラウドプラクティショナーやデータエンジニア、セキュリティなど12種類の試験があります。試験はIT関連の経験により4つのレベルに分けられており、自身の経験値に合わせてステップアップできます。AWSは常に革新を続けているため、最新のAWS情報もチェックしておくと良いでしょう。
インフラエンジニアに向いている人は、以下3つの特徴を持っていることが考えられます。
■ IT技術に関する知的好奇心と学習意欲が高い
急スピードで技術が進んでいく業界のため、常に新しい知識を吸収する必要があります。IT技術に関する知的好奇心と学習意欲の高い人がインフラエンジニアにぴったりです。
新しい知識や技術を身につけると他のエンジニアと差別化でき、キャリアアップにも役立ちます。特定分野の技術を深めるのが得意なのか、IT分野全体を網羅するのが得意なのかによって、キャリアパスが定まってくるでしょう。
■ コミュニケーション能力が高い
インフラエンジニアは技術職ではありますが、網羅する業務範囲が広いため、チーム内の様々な人と接することが多いです。そのためコミュニケーション能力が高い人に向いている仕事です。
自身が作りたいものではなくクライアントのインフラの課題を実現することを目標としており、扱うIT領域も広いため、様々な人と連携しなければ仕事に支障をきたしてしまいます。作業に集中して取り組みたい方は、ITスペシャリストのような専門技術に特化した職業が向いているかもしれません。
■ 冷静かつ堅実に仕事を進められる
インフラエンジニアは、1つのミスがシステムダウンにつながるので、冷静かつ堅実に仕事を進められる人が向いています。
障害パターンをあらかじめ想定しておくと、トラブルが起きた際も速やかに着実な対応ができます。また、どれほど経験を積んでも、一つ一つの作業の確認を怠らない誠実さも求められるでしょう。
インフラエンジニアにおけるキャリアパスとしては、以下のようなものが考えられます。具体的なキャリアパスについてご紹介していきましょう。
■ ITスペシャリスト
インフラエンジニアの技術面をさらに極めていきたいなら、ITスペシャリストを目指してみるのはいかがでしょうか。ITスペシャリストはネットワークやデータベースなどのうちの専門領域で高度の技術を提供するのが役割であり、幅広いIT領域を網羅しているインフラエンジニアの経験が活かせます。
インフラエンジニアとの相違点は、要件定義から保守管理まで担当するのではなく、専門分野のシステム構築がメインになるということです。コミュニケーション力もある程度必要ですが、それ以上に技術力が重要になるでしょう。
ハイレベルな技術の習得はもちろん、業界に求められている領域を逐一把握し、需要に応えられるスキルの研鑽を行うことで活躍の幅が広がります。
■ マネージャー
リーダーシップに自信のある方は、チームを率いるマネージャーがおすすめです。
システム開発のプロジェクトの進行管理をするプロジェクトマネージャー、プロジェクトマネジメントを補佐するプロジェクトマネジメントオフィス、会社組織を管理するラインマネージャーなどが挙げられます。
複数の専門家のまとめ役となったり、現場と経営層の橋渡しをしたりしますが、そのためにはITの知識も必要です。インフラエンジニアとして幅広い分野を担当したことが活かせるでしょう。
ロバート・ハーフ・ジャパンのテクノロジー部門アソシエイトディレクターのVictoria Ryoは、「プロジェクトマネージャーに必要なスキルは『全体設計』『事業戦略立案』『コミュニケーション力』『多角的視点』の4つです」と述べています。
ITインフラの拡大により、今後もインフラエンジニアの需要は増していくでしょう。
IT専門調査会社「IDC Japan 株式会社」の調査では、国内ITインフラ市場の2022年~2027年における支出額の年間平均成長率は8.4%、2027年の同市場の売上額は7兆6,643億円と予測されています。また、これからのインフラエンジニアは、クラウド構築力やITのハイブリッド化に対応できる運用力が求められるでしょう。
今回は、インフラエンジニアの仕事内容や年収、必要なスキルなどをご紹介しました。
IT分野におけるインフラの設計・構築・運用・保守を行うインフラエンジニアになるには、ネットワークやセキュリティなどITインフラに関するスキルや、コミュニケーションスキルなどが求められます。
今回ご紹介した資格の勉強を通して知識や技術の習得をすることで、優位に就職活動を進められるでしょう。