近年、クラウドサービスの普及によりクラウドエンジニアの需要が高まっています。クラウドエンジニアは、クラウドの最適化や保守・運用を担い、クラウド環境を維持するのに欠かせない職種です。
本記事では、クラウドエンジニアの仕事内容や年収、役立つ資格、必要なスキルなどを徹底解説しています。クラウドエンジニアを目指している人や転職を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
クラウドサービスを利用する企業は年々増えており、今後も増え続けることが予想されます。
総務省が取りまとめた「令和5年版情報通信白書」によれば、クラウドサービスを一部でも利用している企業は2018年には58.7%でしたが、2022年には72.2%にまで上昇しています。そのため、クラウドエンジニアの需要も高まっていくでしょう。
ロバート・ハーフ・ジャパンのテクノロジー部門アソシエイトディレクターのビクトリア・リョウ氏は、「企業は、クラウドインフラの設計・構築・管理を担うクラウドエンジニアを必要としています。求められるのは、安全で拡張性のあるシステムを構築し、高いパフォーマンスを実現できるスキルです。同時に、業界のベストプラクティスを遵守し、円滑な業務運営をサポートできる能力も求められます」と述べています。
出典:総務省|令和5年版 情報通信白書
クラウドエンジニアとは、クライアント企業のためにクラウド環境を作るエンジニアのことです。クラウドサービスからサーバーやネットワークなどを借りて、システムを設計・構築・運用します。
従来インターネットを通じたサービスを受ける際は、サーバーやネットワークなどのハードウェアを自社に設置して管理する「オンプレミス」という方法が主流でした。しかし、近年では物理的なハードウェアなしで、インターネット上でサーバーやネットワークを借りる「クラウド」という方法を利用する企業が増えています。クラウドによって提供されるサービスが、クラウドサービスです。クラウドエンジニアは、このクラウドサービスを利用してクラウド環境を構築します。
クラウド環境が構築されると、例えばパソコンにではなくネット上にデータ保存ができるため、社内の資料やスケジュールなども共有しやすくなります。インターネットとパソコンなどのデバイスさえあればいつでもどこでもサービスを利用でき、サーバーのメンテナンスも自社で行う必要がありません。
そのため、クラウドの利用はこれからも増えると予想されており、クラウドエンジニアの需要も高まっていくでしょう。
インフラエンジニアとはITインフラを整備するエンジニアのことで、クラウドエンジニアはそのひとつです。インフラエンジニアには以下のような職種が含まれます。
・クラウドエンジニア
・サーバーエンジニア
・ネットワークエンジニア
・データベースエンジニア
・セキュリティエンジニア など
クラウドエンジニアは、インフラエンジニアの中でもクラウド業務に特化した職種です。
ネットワークエンジニアは、ネットワークシステムを設計・構築・運用する職種です。パソコン同士をケーブルやインターネットでつなげてやり取りできる環境を作ります。
ルーターなどネットワークの機器を使用するオンプレミス環境での物理的な作業の他、近年ではクラウド上でもネットワーク構築の作業ができるようになりました。つまり、ネットワークエンジニアでもクラウド上で作業する場合は、クラウドエンジニアにも当てはまります。
サーバーエンジニアは、サーバーの設計・構築・運用をする職種です。サーバーとは各パソコンに情報を送るコンピューターのことです。
ネットワークエンジニアと同様にオンプレミス環境での物理的な業務だけでなく、クラウド上でも業務ができる場合があります。クラウド上でサーバーの構築や運用をする技術者は、クラウドエンジニアとも呼ばれます。
企業によって呼び方が異なるため、仕事に応募するときは職種名で判断せず、業務内容を見るようにしましょう。
クラウドエンジニアの仕事内容は、主にシステムの「設計」「構築」「保守・運用」の3つに分かれます。それぞれについて見ていきましょう。
クラウドエンジニアは、クラウドサービスを使って企業に最適なクラウド環境を設計します。そのために、まずはクライアント企業からどのようなサービスを希望しているのか聞き、要件定義にまとめます。それを基に「セキュリティ対策はどのようにするか」「どのクラウドプロバイダを使うか」などを設計します。
クライアントの要望だけでなく、コスト面やセキュリティ面も考慮することが大切です。将来的に必要になりそうなサービスも予測しておいた上で設計を考えると良いでしょう。
設計したプランを基に、クラウド環境を構築します。ソフトウェアの導入や仮想サーバーの作成などをします。クラウドサービスが提供するツールを使いこなすスキルや、プログラミング言語を実装するスキルが必要です。運用に移る前にテストを行い、システムが稼働するか確認しておきます。
設計や構築だけでなく、保守・運用までがクラウドエンジニアの役割です。システムに問題がないか監視を続け、問題を発見した際にはすぐに対応します。サイバーテロやウイルスなどの脅威からデータを保護するセキュリティ管理も業務の一環です。
ロバート・ハーフの自社データでは、クラウドエンジニアの平均年収は850万〜1,350万円です。経験やスキルを身につけていけば、1,000万円を超えます。
以下に関連職種の平均年収もご紹介しますので、参考にしてみてください。
職種
| 経験値が浅い場合
| 平均的な経験値の場合
| 優れた経験値がある場合
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テクニカルリード
| 950万円
| 1,150万円
| 1,350万円
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データベースエンジニア
| 850万円
| 1,050万円
| 1,350万円
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開発/インフラ責任者
| 1,250万円
| 1,550万円
| 1,850万円
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インフラエンジニア
| 650万円
| 1,050万円
| 1,350万円
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インフラ/オペレーションマネージャー
| 850万円
| 1,250万円
| 1,650万円
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仮想化エンジニア
| 650万円
| 850万円
| 1,250万円
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クラウドエンジニアはクラウド上の作業のため、リモートワークが多いことも特徴です。
具体的なリモートワークの求人例を紹介します。
職種
| シニア・フルスタック・エンジニア
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想定年収
| 700万~1,100万円
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職務内容
| - Go(Golang)を使用して、スケーラブルで高性能なサーバーサイドアプリケーションとAPIを設計・開発する。
- 最新のフロントエンド技術とフレームワークを使用して、レスポンシブで直感的なユーザーインターフェイスを作成する。
- フロントエンドとバックエンドシステム間の統合ポイントを構築・維持し、シームレスなデータフローと機能を確保する。
- クリーンで保守性の高い、効率的なコードを書く。コードレビューを実施し、ベストプラクティスとコーディングスタンダードの遵守を確認する。
- プロダクトマネージャー、デザイナー、他のエンジニアと密接に協力し、要件を理解し、高品質のソリューションを提供する。
- ユニットテストの開発と実行、トラブルシューティングと問題解決、アプリケーションの安定性とパフォーマンスを確保する。
- コード、プロセス、システムアーキテクチャに関する明確で包括的なドキュメントを維持する。
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応募資格
| - コンピュータサイエンス、エンジニアリング、または関連分野の学士号、または同等の実務経験。
- Go(Golang)開発に重点を置いたフルスタックエンジニアとしての実績ある経験。
- Go(Golang)によるバックエンド開発に精通していること。jsやその他のバックエンド言語にもオープンであること。
- フロントエンド技術(JavaScript、React、Angular、jsなどのフレームワーク)の経験。
- データベース(SQLおよびNoSQL)とORMツールに精通していること。
- RESTful APIとマイクロサービスアーキテクチャの理解。
- 複雑な技術的課題に取り組むことができる、高い分析力と問題解決能力。
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勤務地
| 東京
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クラウドエンジニアに必要なスキルを見ていきましょう。
クラウドエンジニアは、クラウドを扱う職種であるため、クラウドに関するスキル・知識が必須です。
例えば代表的なクラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud (通称: GCP )、Azureに関するスキル・知識は身につけておきましょう。企業で採用されることも多いサービスのため、それぞれの特徴を知っておくことでサービスの提案もしやすくなります。認定資格を得れば、スキルを証明できます。
クラウド技術は常に進化するため、学び続ける姿勢が大切です。
クラウドエンジニアを目指す上で、プログラミングスキルは必要なスキルの1つです。APIの統合やソフトウェア開発において活用されます。
例えばPython・Ruby・Javaなどの言語に関する知識があれば、コーティングにより作業を自動化できます。また、Infrastructure as Code(IaC)の使用にも役立ちます。IaCはインフラの構成や設定をコードで管理する方法で、手動設定によるエラーをなくせることがメリットです。
データ管理や分析などに役立つだけでなく、一度自動化することでコードを再利用できるため、新たに開発を行う際も作業効率アップにつながります。
システムの設計・開発には、論理的思考力が必要です。クラウドエンジニアは、クライアントの要求に沿ってシステムを設計しますが、すべての要求に従っていてはコストが膨らみ最適なシステムになりません。クライアントの要求を聞きつつも、そこから真のニーズを見出すには、論理的に考える必要があります。企画の提案に納得してもらうためにも、段階を踏まえた体系的な説明が有効的です。
クラウドエンジニアとして働く上で、円滑に業務を進めるためにはコミュニケーションスキルが必要です。クラウドエンジニアは、チームで協力しながら作業するため、作業の進捗状況の報告などやりとりが必要な場合があります。
また、チームメンバーだけでなくクライアントとの関係構築も重要です。クライアントの要望に沿えない場合も、説明を重ねたりクライアントにとってメリットとなる別の提案をしたりするなど、信頼関係を築くことが今後の仕事にも良い影響をもたらすでしょう。
クラウドエンジニアとして仕事する上では、次の資格の取得がおすすめです。
AWS認定は、Amazonが提供しているAWS(Amazon Web Services)に関する知識やスキルを認定する資格です。難易度は4つに分かれており、世界でも131万人(2024年2月時点)を超える人が取得しています。
AWS認定はAmazonが提供していることもあり、学習資材やリソースが豊富にあります。無料のトレーニングも用意されており、初めてクラウドについて学ぶ人も取り組みやすいことが特徴です。クラウド初心者は「AWS 認定クラウドプラクティショナー」資格の取得から目指しましょう。
Google Cloud認定資格は、Googleが提供するクラウドプラットフォームである「Google Cloud」のスキルや知識を認定する資格です。3種類の資格の中から、経験に応じて自身に適した資格を取得できます。
クラウドテクノロジーの学習トレーニングをレベル別で提供している他、Innovators Plusに加入するとGoogle Cloud認定資格のクーポンやエキスパートとのコンサルティングなど、さまざまな特典が得られます。
Microsoft認定のAzure関連の資格は、Microsoftが提供するクラウドプラットフォームである「Azure(アジュール)」のスキルや知識を認定する一連の資格です。
目指す職種やレベルに応じた認定資格が用意されています。レベルは初級(ファンダメンタルズ)・中級(アソシエイト・スペシャリティ)・上級(エキスパート)の3つに分かれており、職種は一般開発者やAIエンジニア、データエンジニアなどがあります。資格取得前にあると良いスキルもそれぞれ指定されているため、自身にに合った認定資格を選びやすいことが特徴です。
CompTIA Cloud+認定資格は、CompTIAが提供する、クラウド上のインフラ構築のスキルや知識を認定する資格です。具体的には、クラウドのアーキテクチャと設計、サーバーのセキュアな管理、運用に関するスキルを証明できます。国際的な資格で海外でも有効です。
AWSやAzureのようなベンダーのサービスに縛られず、クラウドに関する知識を網羅できます。その分、試験範囲はクラウドに関する基礎知識から運用方法までと幅広いため、十分に対策しておくことが重要です。
シスコ技術者認定資格(CCNA)は、シスコ技術者認定の1つであり、IT環境に対応した能力を有していることを証明する資格です。ネットワーク関連やIPサービス、セキュリティの基礎などが出題されます。
全てのレベルに対応したトレーニングを提供しており、種類もウェビナーやチーム向けなど充実しています。実務に役立つスキルが取得でき、ネットワークの基礎が学べるため、クラウドエンジニアを目指す人におすすめの資格です。
Linux(リナック)技術者認定は、クラウドのシステム構築から運用管理までのスキルや知識を証明できる技術者認定です。システムアーキテクチャ設計やセキュリティ、監視ツールなど、クラウドシステムの開発現場で必要とされる実践的なスキルを網羅的に習得できます。
Linux技術者認定は、4つのレベルに分かれています。特にLinuCのレベル1とレベル2は、難易度は低くても全てのエンジニアに必要な基礎知識を学べるため、これからエンジニアを目指すという人におすすめです。初心者がLinuCレベル1を取得するための勉強時間の目安は、100~160時間ほどです。
クラウドエンジニアに向いている人は、次の通りです。
クラウドエンジニアに向いている人は、変化していくシステムに対応し、最新のスキルを学ぶ意欲のある人です。クライアントへ最適な提案するために、時代に合ったスキルを身につけておく必要があります。
日々の業務でも、「なぜシステム障害が起きたのか」や「作業を効率的にするために、こんなシステムがあったらいい」など自ら課題を見つけることが、新しいシステムへの順応性を高めるでしょう。
クラウドエンジニアは、ミスなく慎重に作業できる人に向いています。クラウド開発においては、小さなミスであってもシステムが正しく動作しないことがあるためです。
特にクラウドエンジニアはリモートワークも多く、確認作業を怠らないなど自己管理ができないとシステムが誤作動しかねません。ミスがあった場合も、原因を冷静に突き止め対処できる力が必要になります。
クライアントはそのときどきで変わります。そのため、クライアントの社風に合わせた対応もクラウドエンジニアに求められることです。
例えば、経営層と社員の上下関係がはっきりしている企業では、社員の意見を取り入れた企画を作っても、経営層が納得できなければ無駄になってしまいます。クライアントの社風を考慮しながら作業を進めることも、クラウドエンジニアに必要なスキルといえるでしょう。
未経験でも応募が可能な求人もありますが、クラウドエンジニアを目指すにはITに関する知識・スキルを身につけることが必須です。独学でも良いですが、専門学校やスクールに通う方がモチベーションを保つことができ、実践的なスキルも身につきます。他のエンジニアとしての実務経験があれば、そのスキルを活かせるでしょう。
履歴書や面接でアピールするためには、資格を取っておくと有利です。認定資格が提供するトレーニングを利用すれば、ITへの理解も深まり、試験対策にもなります。
また、ある程度ITの知識が身についたら、実際にAWSやGCPなどのクラウドサービスを使ってみましょう。それぞれのサービスを体験することで、クラウドエンジニアの仕事を感覚的に理解できます。
クラウドエンジニアの代表的なキャリアパスについて見ていきましょう。
クラウドエンジニアで培った技術をさらに高めたい人は、ITスペシャリストがおすすめです。ITスペシャリストになると、設計から保守・運用まで一貫して対応することが少なくなり、専門分野の技術面でのサポートに特化する場合が多くなります。そのため、高度な技術が必要です。
専門分野には、ネットワーク・データベース・システム管理・セキュリティ・プラットフォーム・アプリケーション共通基盤があり、いずれかの分野で技術力があればITスペシャリストといえます。クラウドエンジニアはネットワークやセキュリティに関わることもあるため、経験を活かせるでしょう。
スペシャリストは技術職としてのキャリアパスですが、プロジェクトマネージャーはマネジメント職のキャリアパスです。
プロジェクトマネージャーは、システム開発のプロジェクトの進捗管理を担うポジションです。プロジェクトメンバーをまとめながら、クライアントと打ち合わせをし、プロジェクト全体の指揮を執ります。プロジェクトの種類は幅広く、クラウド構築以外にハードウェアを扱うものも含まれます。
具体的な業務は、プロジェクトの予算・人員、スケジュール管理、成果物の品質チェック、クライアントへの報告などです。クライアントやプロジェクトメンバーなど多くの人と関わるため、コミュニケーションスキルやリーダーシップのある人におすすめです。
クラウドコンサルタントは、最適なクラウドシステムを導入するためにサポートするコンサルタントです。クライアントの相談に乗ったり、課題に対して解決策を講じたりします。クラウド導入後も、運用状況を確認しサポートを行います。
クラウドエンジニアの業務の一部に特化した形なので、培ったスキルをそのまま活かしたい人におすすめです。
ロバート・ハーフ・ジャパンのテクノロジー部門アソシエイトディレクターのVictoria Ryoは、「クラウドコンサルタントは、コミュニケーションスキルや提案力だけでなく、予算内でクライアントの要望を効率よく組み込める論理的思考力が求められます」と述べています。
今回は、クラウドエンジニアの仕事内容や年収、役立つ資格などをご紹介しました。クラウドエンジニアになるには、クラウドに関する知識や、コミュニケーションスキルが必要です。関連した資格を取得すれば、優位に就職活動を進められるでしょう。学習意欲が高い人は、ぜひ目指してみてください。