競合他社の社員を自社に乗り換えさせる「引き抜き」は相手企業に大打撃を与えます。自社の展望を広げると同時に他社の事業を窮地に追い込むことにもなりかねません。

直近の利益にはなるかもしれませんが、持続可能な戦略としてはどうでしょうか。

引き抜きのメリットは、競合他社の社員が経験、顧客リスト、評判と信頼を伴ってチームに加わることにより自社の収益、売り上げ、顧客数、リード拡大の可能性が高まることです。ライバルの事業秘密と専門知識を買い取る大胆な手段を講じるにあたり、少なくともそれくらいの期待は抱いていることでしょう。

社員の「引き抜き」は倫理的か、合法か?

かなり大目に見た場合でもほとんどの人はそのやり方を非倫理的であると感じます。最も厳しい見方がされれば、従業員の勤務先および知識共有の程度を制限する取引契約条項の拘束力に捉われて身動きが取れなくなることもあり得ます。

実行を決めた側にとって都合が良いことは、裁判も辞さないとなれば、取引契約条項の拘束力が必ずしも法的な力を持つとは限らないことでしょう。場合によっては、従業員の働く機会を制限するそうした拘束を行き過ぎとして、無効の判決を下す裁判所もあるからです。ただしそうした事例はあまり多くなく、むしろ新しい従業員が法廷に呼ばれ、ご自身の会社がそれを援助する場合に、新規雇用先である企業まで司法上の非難を受ける可能性の方が高いでしょう。/p>

元の雇用主に与える影響

別の事例では、以前働いていた会計会社を退職した際に担当顧客を奪ったとして、元の雇用主から損害賠償を求められたケースもあります。

しかも、引き抜きを行う側にとって悪い知らせはまだあります。新しく採用した社員の業績が、内部から昇進させた別の人材ほど高くないという可能性です。経営学教授のマシュー・ビドウェル氏は、「外部から採用した従業員」は、社内の候補者と比べて最大20パーセント も高く給料が支払われているだけでなく、離職する可能性も高いことが分かったとしています。

落とし穴にはまらないために

競合他社からの社員の引き抜きには多くの否定的な意見や状況が伴うものの、重要な職務を担っていた人材が辞めたり、売り上げが急激に増加して人手が足りないなどの理由でほかに代替策がないという場合もあります。

そのようなときは、候補者の雇用契約を慎重に確認し、法律の専門家に助言を求めることで困難な状況に陥ることを防ぐことができます。また社内の従業員には決断内容を説明し、彼らが不安や疑問を感じる可能性があることも認識しておきます。

しかし今後の手立てとしては、こうした手段を取らずに済むよう、社内の重要な人材が辞職した際に企業を危機に陥れる可能性がある役割とスキルを特定しておくことが有効です。そしてその情報をもとに、現職従業員の研修を含むサクセッションプランニングを実施し、その他の危機管理活動の計画を立てるとよいでしょう。